面白く、役に立つ研究開発
金出 武雄氏

カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授・株式会社デ ンソー技術顧問
1973 年京都大学大学院博士課程修了、同年京都大学情報工学 科助手、1976 年同助教授、1980 年米国ペンシルバニア州ピッ ツバーグカーネギーメロン大学へ移る。1982 年テニュア付準 教授、1985 年正教授、1993 年 U. A. and Helen Whitaker 記念教授職現在にいたる、1992 年~ 2001 年ロボット研究所 所長。2001 年には、産業技術総合研究所でデジタルヒューマ ンラボを興し、2009 年まで所長を兼務。コンピュータビジョ ン、ロボット、自律走行車、マルチメディア等の研究に従事。 米国工学アカデミー外国特別会員。京都賞、フランクリン協 会バウアー 賞、C&C 賞、大川賞、立石賞特別賞、ACM Allen Newell 賞、IEEE Robotics and Automation パ イ オ ニア賞、国際計算機視覚会議ロー ゼンフェルド生涯業績賞、 人工知能学会業績賞など。

講演内容:

研究開発に苦労はつきものだが、苦労ばかりでは続かない。長く研究を続け、成果を上げていくにはやっていて面白いもの、自分や誰かの役に立つものであることは重要なポイントだと金出教授はいう。2001年のスーパーボウルで採用されたEyeVision(競技中のプレーヤーの画像を任意の視点で表示する)、51台ものカメラを使ったリアルタイム3Dモデリングシステム、雨粒だけを照らさないで良好な視界を確保できるヘッドライトなど、教授が手掛けた研究開発成果を事例として紹介しながら、良い研究。面白い研究。役に立つ研究とはどんなものなのか。そのために必要な考え方、研究アプローチを述べる。

視覚の数理モデルを目指して
〜構造つき予測とその先〜
石川 博氏

早稲田大学 理工学術院 教授
基幹理工学部 情報理工学科 / 大学院 基幹理工学研究科 情報理工・情報通信専攻
1991年京都大学理学部理学科卒。1993年京都大学大学院理学研究科数学専攻修士課程修了。2000年ニューヨーク大学クーラン数理科学研究所 計算機科学博士課程修了(Ph.D. in Computer Science)。2004年名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科講師。同准教授、教授を経て、2010年より早稲田大学基幹理工学部情報理工学科 教授 。コンピュータビジョンの研究に従事。 Harold Grad Memorial Prize、IEEE Computer Society Japan Chapter Young Author Award、MIRU長尾賞、他受賞。

講演内容:

石川教授の講演は、錯視の例題から「視覚」とはなんなのかという疑問から始まる。視覚というのは単に対象を点や色の並びとしてとらえているわけではなく、立体であることを推論しながら認知している。それを画像認識ではどのように処理すればいいのか。単に平面の画素データを処理するだけは、画像認識にはならない。構造をとらえる数理モデルが必要となる。現在この分野ではニューラルネットワークによる機械学習が有効とされ、アルゴリズムの進歩も目覚ましい。とくにCNNと呼ばれる畳み込み処理は、処理時間の短縮、認識精度の向上に貢献すると注目されている。このような画像認識の最先端技術を、今後の展望も含めて解説する。

アクセシビリティ・ニーズがもたらすモビリティ技術革新
浅川 智恵子氏

日本IBM 東京基礎研究所 アクセシビリティ・リサーチ担当
IBMフェロー 工学博士
1985年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。以来、同社東京基礎研究所で情報アクセシビリティの研究開発に従事。1997年、世界初の実用的な視覚障がい者向けインターネット専用音声ブラウザ「ホームページ・リーダー」を開発、世界の視覚障がい者の情報アクセス手段を格段に向上させるきっかけとなった。2004年東京大学工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。2009年、日本人女性で初めてIBM技術者の最高職位であるIBMフェローに就任。2014年秋よりIBMフェロー兼カーネギーメロン大学客員教授として米国に赴任、視覚障がい者に実世界への新たなアクセシビリティをもたらすことを目指すコグニティブ・アシスタンスと呼ばれる研究開発に取り組む。Women In Technology International女性技術者殿堂入り、米国女性エンジニア協会アチーブメント賞、紫綬褒章、立石賞特別賞など。

講演内容:

自身も視覚障害者であり、アクセシビリティの研究を専門とする浅川氏は、目が見えない人にとっての自動車、自動運転という視点での講演となる。アメリカでNational Federation of the Blind が行っ たブラインドドライビングの実験 (http://www.blinddriverchallenge.org/)、UBER の自動運転タクシーの利用体験などが紹介される。ブラインドドライビングは、手のひらに細かい風を当てて障害物を示したり、スピードを伝えるベストなど特 殊なデバイスを使って、アイマスクをした状態で運転を可能にするという実験だ。IBM が研究しているコグニティブ・アシスタントについても解説がある。同社が研究するコグニティブ・アシスタント技術は、コグニティブ・コンピューティング技術、IoT技術、ナレッジベース、音声認識などを活用し、障害者の支援だけでなく、自動運転に必要な機械学習、ドライバーズエージェントにも深く関係する。ADAS や自動運転とは分野が違う浅川氏だが、エンジニアにとっては示唆に富んだ内容となっている。

安心・安全なクルマを支える
センシング技術
松ヶ谷 和沖

ADAS推進部長
1989年 日本電装株式会社(現:株式会社デンソー)入社。半導体結晶成長、高周波トランジスタ、マイクロ波/ミリ波IC、ミリ波レーダ、車車間/路車間通信システムの研究開発に従事。2010年 研究開発3部長。周辺環境センサ、無線通信の研究開発を担当。2015年 研究開発1部長。2016年 ADAS推進部部長。現在は安全運転支援・自動運転に関わる次世代製品の構想と技術開発とを担当。博士(工学)。

講演内容:

デンソーは「地球と生命を守り、次世代に明るい未来を届けたい。」というグローバルな方針を打ち立てている。環境を守り、ドライバーや歩行者の安全を守ることで、車の持つネガティブな要素を少しでもなくしていこうというメッセージが込められている。これを実現する車の安全装備には、ブレーキや灯火類のような基本的な装備、シートベルトやエアバッグなど事故後の被害を抑えるためのしくみがある。近年ではさらに踏み込んで、レーン逸脱防止、衝突軽減ブレーキのような危険や事故を事前に回避する方向にも技術開発が進んでいる。このようなADAS技術は自動運転への展開も期待されている注目分野だ。松ケ谷氏の講演は、デンソーの安全やADAS技術への取り組みとして、カメラ、ミリ波レーダ、LIDAR(レーザレーダ)、DSM(ドライバ・ステータス・モニタ)という4つの製品について、特徴と動作原理とを紹介する。

機械学習による運転挙動のモデル化
~運転シーンと意思決定のモデル~
坂東 誉司

DENSO International America, Inc., Silicon Valley Innovation Center, Manager
2007年 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程修了、博士(工学)。同年株式会社デンソー入社。2015年よりDENSO International America, Inc. Silicon Valley Innovation Center, Manager。入社以来、ドライバ支援システムのためのセンシング技術開発、 運転挙動データの解析技術開発などに従事。

講演内容:

坂東氏の講演は、人間が運転する自動車の運転挙動を解析してモデル化する手法について。自動運転や無人カーの制御に応用できるアルゴリズムや考え方、そしてその研究状況についてを解説する。個々のな安全運転支援技術を、一般道での自動運転に結びつけていくには、その場の歩行者や車の状況を把握するだけでは不十分で、ドライバーの操作や周辺の状況についての時間的な文脈情報を含んだ「コンテキスト」をとらえる必要がある。それには、位置情報や操作量などの連続データで構成される運転シーンをプリミティブは要素に分解して、離散モデルで表現した上で、頻出するシーン遷移パターンを抽出する方法が効果的。このとき考えなければならない要素、計算量の削減手法も紹介する。さらに、出来上がった予測モデルを運転支援やアドバイスとしてドライバーや車にフィードバックするアイデアも語られる。

物体認識の高速化・省メモリ化のための整数基底分解法
~線型モデルから深層学習まで~
安倍 満

株式会社デンソー アイティーラボラトリ 研究開発グループ リサーチャ
2007年 慶應義塾大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。2007年 株式会社デンソーアイティーラボラトリ入社。パターン認識・理解、コンピュータビジョンの研究に従事。2011年 画像センシングシンポジウム(SSII2011) 最優秀学術賞、2015年 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2015)MIRU長尾賞、他受賞。

講演内容:

画像認識における課題のひとつに対象を解析し何であるかを判断する時間・処理速度の問題がある。一般的なアルゴリズムをソフトウェア、あるいはFPGAなどに実装しても、動画のリアルタイム処理では実効速度が追いつかないことが多い。デンソーアイティーラボラトリが開発した「整数基底分解法」は、画像認識のための機械学習アルゴリズムで必要とされるベクトルの浮動小数点演算を高速化する手法。本講演では、線形SVMによる動画画像からの歩行者の認識、SDMによる顔のランドマーク抽出に適用した事例について、高速化のしくみ、実際の効果を紹介する。また、整数基底分解法を、ディープラーニング(ディープニューラルネットによる深層学習)応用するための方法についても解説する。