自動運転を実現するための重要な鍵を握る技術のひとつが“コンピュータビジョン” ですが、デンソーはこの領域の基礎研究にもたいへん注力しています。その一端を担うのが、私が所属しているデンソーアイティーラボラトリ。情報系の先行開発を主に推進しているデンソーグループのR&D機関であり、こちらで私は現在、「画像認識の高速化と省メモリ化」に取り組んでいます。
昨今、高度な機械学習を活用した自動運転技術に世の中から大きな期待が寄せられていますが、実用化する上ではかなり高いハードルがあります。自動車に搭載されるコンピュータはどうしてもリソースに限りがあるため、複雑なアルゴリズムになればなるほど処理速度が遅くなってしまう。そのギャップを埋めるため、性能を維持したまま機械学習の演算量を抜本的に削減することが、いまの私の研究テーマです。

機械学習においては浮動小数点演算が膨大に発生し、ベクトルの内積計算が必要になります。この処理に大変なパワーを要するのが最大のネックであり、ベクトルの内積演算を「整数基底分解法」によって、コンピュータが処理しやすい論理演算の形に変換できれば、高速化・省メモリ化を図ることができる。結果、機械学習を用いたコンピュータビジョンによる人間の顔の検出などが、精度を落とさずよりリアルタイムに行えるようになります。
すでに成果を学会でも発表していますが、この理論は自動車関連のみならず、さまざまな分野に応用が見込めるため、他業界のメーカーの研究者の方々からも注目をいただいています。学術的な基礎研究と、実用化に向けた応用研究の両面が味わえるテーマであり、たいへんやりがいを覚えています。

そして研究を進めるにあたって、ここアイティーラボラトリは非常に刺激的な環境です。さまざまな領域の研究者が集い、そうした同僚たちからいろんな知見を得ることができる。私が手がける「整数基底分解法」は線形代数や確率などの数学がベースになっていますが、こうした知識はセンシングや信号処理などにおいても重要です。そうしたテーマを究める研究者たちと、線形代数や確率の基礎理論について折に触れてディスカッションし、新たな手法を編み出すためのヒントを掴んでいます。また、大学との共同研究も積極的に進めており、そちらからも新たな着想を得ています。これからさらに研究を重ね、現場のニーズを理解しているデンソーの事業部門と協業し、ぜひ自らの成果をいち早く真に実用化していきたいと思っています。

安倍 満

株式会社デンソー アイティーラボラトリ 研究開発グループ リサーチャ

2007 年 慶應義塾大学大学院博士後期課程修了.博士(工学).2007 年 株式会社デンソーアイティーラボラトリ入社.パターン認識・理解,コンピュータビジョンの研究に従事.2011 年 画像センシングシンポジウム(SSII2011) 最優秀学術賞,2015 年 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2015) MIRU 長尾賞,他受賞

安倍 満

株式会社デンソー アイティーラボラトリ
研究開発グループ リサーチャ

2007 年 慶應義塾大学大学院博士後期課程修了.博士(工学).2007 年 株式会社デンソーアイティーラボラトリ入社.パターン認識・理解,コンピュータビジョンの研究に従事.2011 年 画像センシングシンポジウム(SSII2011) 最優秀学術賞,2015 年 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2015) MIRU 長尾賞,他受賞