日本基準か世界基準か。
人を信用するかしないか。
6人の問題意識が
全社を動かした。
生産技術推進部 施設技術担当
キオクシアは三重県四日市市で世界最大級のフラッシュメモリ工場を持ち、岩手県北上市にも新工場を構えて、生産能力の拡大を進めている。これらの大規模な製造拠点の「施設技術を推進する」業務とは?ファシリティマネジメントのプロにインタビューした。
2022年入社
生産技術推進部 施設技術担当
静岡県出身。大学で基礎生物学を専攻。卒業後、大手食品メーカーに就職し、生産管理、不動産管理等の業務を経験。工場づくりのダイナミズムに魅力を感じ、ファシリティマネジメントの方向にキャリアシフト。自動車メーカーの不動産管理職を経て、キオクシアに入社。
自己紹介を兼ねて職歴を話したところ、「別部門に最適職あり」と勧められて、数ヶ月で異動。
当初の職務は、横浜テクノロジーキャンパスの施設管理と聞きましたが。
はい。京浜地区のキャリア採用に応募したので、当然の配属でした。横浜テクノロジーキャンパスは研究・技術開発の拠点ですから、試作やテスト等に必要なスペースの管理業務に携わりました。そして私に何ができるのか、部署の皆さんに知ってほしいと思い立って、自己紹介の機会を設けてもらったのです。
その場で、前々職の大手食品メーカーに16年在籍し、全国の大小8つの拠点で新工場の建設や増改築、工場の閉鎖・売却など、製造業の中核を担う資産のマネジメントに従事した経験や、前職の自動車メーカーに在籍した期間を通して、一貫してものづくりに魅力を感じて仕事に打ち込んできた思いなどを話しました。
結果的に、「そういうキャリアなら、工場施設の施策立案・支援するほうが、今の部署以上にスキル・経験を活かせる」と上司に勧めていただき、本社の生産技術推進部への異動が決まりました。入社して半年も経っておらず、全く予想していなかった異動でしたが、世界有数の半導体工場の新増設工事や施設技術の向上を企画・推進する部門だと聞き、半導体を知らない不安より興味のほうが勝って、チャレンジを決意。製造プロセスや工場施設に関する学習から新たなスタートを切りました。
損害保険会社の定期実査がきっかけで、6人の有志が集まって、タスクフォースを結成。
2年目の2023年から、資産保全活動に取り組まれてきましたね。
始まりは、損害保険会社が毎年実施している工場の定期実査でした。火災リスクに対する資産保全対策が、「国内の基準には適合しているけれど、グローバルスタンダードを満たしていない」と指摘を受けたのです。端的に説明すると、日本の基準は消防法の順守で、主として人による消火・消防を重視しているのに対し、人を信用しないのが世界基準で、自動消火システムによる対策を求めています。もちろんスプリンクラー等の消火設備は設置していますが、取り組み方が異なるため、現状のままでは、グローバルに事業展開する工場として万全とは言えないと評価されたわけです。
これがきっかけになり、「何とかしなくては」と問題意識を抱いた関連部門の有志が集まって、自分たちにできることから始めようと話がまとまりました。元消防士、製造現場の世界基準に詳しい電気メーカー出身者、国内外の損害保険を熟知したエキスパートなど、私を含めて総勢6名。担当業務との関わりが深い私が取りまとめ役を引き受け、各所属部署の上司にも働きかけて、世界基準や保険の勉強会を開いたり、ワーキンググループをつくってリサーチしたり……といった活動から進めていきました。
当時、国内外の半導体工場で市場に影響を及ぼす火災が発生していたこともあり、資産保全が重要との認識が自然に広がったのも追い風になりました。私たち6人が立ち上げた活動が徐々に話題を集めて賛同の声が拡大。全社ビジネスリスク委員会の議題に取り上げられ、2023年11月、副社長をプロジェクトオーナーとする全社横断型の資産保全リスク対策プロジェクトが発足しました。私は事務局を務め、課題の遂行、会議運営、報告を担当しました。
期間1年数ヶ月、最大80名超のプロジェクトを完遂。後継活動の事務局として、次なる課題にフォーカス。
プロジェクトの内容を具体的に話していただけませんか?
グローバルスタンダードに準拠して火災リスクから工場の建物や生産設備を守ることが、いちばんの目的です。期間は2023年11月頃から2025年3月末まで。人数は、関連役員と本社・四日市工場・北上工場の関連部門を合わせて最大80名超。部門が多岐にわたる大所帯ゆえに、会議ではさまざまな意見が飛び交って、まとめるのは大変な苦労の連続でした。思案の末、「確かに必要な対策だから、少しでも前に進めることが大事だ」という全員に共通する思いを拠り所に、対象となる施設・リスク・責任を優先度の高いものに絞り込み、範囲を限定することで合意に漕ぎつけました。最終的に予定通り、資産保全リスク対策のガイドラインを文書化し、必要な投資の承認を得て完遂できたので、大きく報われたと思っています。
現在は、工場・設備の新増設や改修・更新に応じて、順次ガイドラインを適用する段階に入っています。同時に、今回はウエハー上に回路を形成する前工程だけを対象にしたので、半導体チップを切り出してパッケージングする後工程への展開、また火災以外の災害リスクに対する資産保全も、次のフェーズの重要な課題です。私は、こうした後継活動を促進する事務局を担当しており、より大局的な観点からBCM(事業継続マネジメント)をグレードアップするミッションも担っています。ますますスキルを高めながらキャリアを伸ばしていけると意欲を燃やしています。
※本記事は取材時点の情報であり、最新の情報とは異なる場合があります。(取材日:2025年8月)







